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車椅子電車評論家・アシトド松井
2024年春にバスの自動運転化実証実験を報告するゼミナーに参加する機会があつたのですが、主催者側から全く車いす利用者やベビーカーでの乗降の話題が全くでませんでしたので、自動運転バス実用化後ふたたび「車いすで路線バスに乗せてくれ」運動が行われるのではないかと一抹の不安を覚えてしまいました。そんな車椅子路線バス乗客の心情の一例をご紹介したく思います。
❶2021年に試験運行中の自動運転バスに車椅子で乗車体験しています。
私の地元は都市部に近い田舎?で、交通量が少なくてしかもある程度の利用者が見込めそうな、路線バスの自動運転の実験にはうってつけの場所があります。2021年末に実証実験が行われていた「自動運転バス」に乗車することにしました。
自動運転バスの車体は小型ノンステップバスの日野ポンチョが使用されていました
乗車予約をしたわけでもないのですが、運転手さんが乗務しておられ、すんなり乗せてもらえました。当初は実験段階だから安全のため運転手さんがのっておられるのだという程度に考えていたのですが、自動運転といっても何段階ものレベルがあり無人での運行レベルには2024年の段階でも達していないようです。自動運転と無人運転では言葉の意味が違うのかもしれませんね。
自動運転バス 車内の様子と実験機器・モニター等 2021年末に撮影
乗客の方には休みの日にわざわざ体験乗車にこられた運転手さんも。運転席後ろの道路状況を表しているモニターを興味津々と眺めていたのですが、周辺の建物、バスの運行車線情報、など多様な情報が映し出され、単にGPSの位置情報処理ぐらいの話では済まない程度のことはド素人の私にも推察できました。車いす利用者の立場から気になったことはバスの停車位置が歩道とスロープ板がとどく範囲に設定(プログラム)されておらず、運転手さんが切り返して乗車位置を変えて下さつたところ、このあたりは実験中に車椅子利用者が乗車して確認しておかなければ修正しておいてもらうことは難しいかもしれませんね。
❷2023年 試験運行中の自動運転バスで乗客の転倒事故が起きてしまいます。
2023年初め、自動運転中のバスが道路状況の変化に対応できず急加速。乗客の方が負傷されてしまうという事故が起こってしまいます。運転手さんがサポートしなければならない自動運転レベルの実験だったそうで、責任の所在等の問題も発生したようで乗客を乗せての運転は行われなくなりました。またその後の報道によると実験の継続にも問題出てきているようです。
❸2024年春 交通まちづくりのセミナーに参加しました
地元のバス路線が次々と廃止され、ノンステップバスでの通院が出来なくなり現状を知りたく参加したのですが。交通行政の専門家や技術的な専門家の方が中心のセミナーで全く場違いなところに来てしまった感覚。でも異なった立場の方の意見を聞いてみることは決して悪いことではなく、いろいろな課題を感じることができました。鉄道路線の存続やバス路線廃止後の交通機関を行政主導でどう確保するかといった幅白いテーマでしたが、今回は自動運転バスについての部分のみご紹介したいとおもいます。
イ バス路線が廃止または減便される大きな原因は運転手さん不足にあるらしい
報道などでご存じかもしれませんが、大都市近郊でも起きている路線バスの廃止・減便は運転手さん不足にあるそうです。少子化による労働人口の減少によりどこの現場も人手不足のようですが、こちらは物流問題と同様、労働規制の強化・休憩時間の確保(聞こえが悪いですが睡眠時間を削ってサービス残業をいっぱいしてきた私には健全な状況に戻すのだとおもうのですけど)が原因だそうです。(2024年問題)
ロ 自動運転バスといっても完全自動運転に到達する前段階のいくつものレベルがあるらしい
伺った説明によると自動運転のレベルわけにはレベル1(運転支援・例えば自動で止まる、車線からはみ出さない)からレベル5(完全自動運転)まであり、セミナーの行われた2024年段階ではレベル3(条件付き自動運転・システムが全ての運転タクスを実施するが、システムの介入要求等に対してドライバーが適切に対応することが必要)が中心に行われているようでした。
ハ 車体の性能だけでなく道路の環境整備も必要だそうです
街路樹は道路状況を変えてしまうので整備したり、車体の位置を把握するため道路に特殊な塗料を施したりという工夫も必要なようです。
❹セミナーに参加してのド素人の車いす路線バス利用者の感想
「運転手さん不足」を解消するためと思っていた自動運転バスですが、無人運転というわけではなく何段階もの実験が必要なようで、運転手さんを乗せるのであれば、それで路線バス廃止・減便対策に直結するのでしょうか?少なくとも運転手さんの業務軽減にはなるのではと思われますが。労働時間の問題などそれで解決できるのでしょうか?
❺車いすやベビーカーの乗客への配慮の話は主催者側からは聞こえてきませんでした。
当たり前といえばそれまでですが、自動運転バスの技術者や地域交通をどうのように存続させるかというテーマのセミナーで主催者側から車いす利用者やベビーカーの乗客への配慮が語られることはありませんでした。私も(今から思えばうかつなことに)バス路線が廃止されてしまえばバリアフリーどころの話ではないと考えていたので、あまり深入りした質問は控えてしまいました。「自動運転バス」イコール「無人運転バス」ではないのでは?との印象も持ちましたが、技術革新は新たなアイデアが出てきたりすると急速に進むことがあり、身近な路線で「無人運転バス」による運行が実現するかもしれません。
私が知りえた範囲ではスロープ板を完全自動で設置する、歩道との幅を広げずにバスを停車させる技術などが研究されているといった話はきこえてきませんでした。運転手さんが乗務されないケースも想定して車椅子利用者等を乗車させるような技術開発が進むと有りがたいのですが、そのような実験例も見つかりませんでした。
❻ここまで得られた知識からの現時点でのまとめ
路線バスに車いす利用者そしてベビーカーや歩行弱者が利用できるようになるためには、先人達の地面に叩き付けられるような苦難の歴史がありました。私も含めて次の世代の人はそのことに思いをよせることもなく当たり前の権利として引き継いでしまうのですが、得られた権利は不断の努力をかさねなければ失われてしまうこともあります。「自動運転バス」に車いす利用者等に対する配慮を早い段階から要望しておいたほうが良いと思います。
私は中央官庁と車いす障害者団体との間でどのような交渉がなされているか知りうる立場にはありませんので、的外れの記事になっていれば良いのですが、少なくとも「自動運転バスに車いすで乗せて下さい」運動のようなことが再び起きないように、この記事を読んでいただいた方に少しでも考える機会をお持ちいただけたなら幸いです。
また専門知識や情報をお持ちの方がおられましたら「コメントを書く」から、間違いの指摘やご意見等を頂ければ幸いです。
この記事は2024年までに著者が得られた情報に基づいています。
車椅子電車評論家・アシトド松井
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